狐のタバコ屋

 
戸を叩く音がする。
開けてみると、狐《きつね》の面をつけた男がタバコの箱を詰めた革トランクを開いて立っていた。
「タバコ屋でござい」
なんだ。セールスマンか。
戸を閉めようとすると、狐面の男は戸に足を挟《はさ》んだ。
「とても体に良いものです。鎮守森《ちんじゅもり》の薬草を月光にあてて、強壮の魔法をかけたものでござんす」
鞄《かばん》から能書きのパンフレットを出して狐は丁寧《ていねい》に説明した。
「いいね。一箱もらおうか」
「へい毎度。少々寿命が減りますが、大したことじゃございません」
また来ると言って狐は帰っていった。
 
――完――