最高傑作

 
 ある作家がいた。
 作風に悩み、傑作を書きたいと、十年分の食糧と水を確保して山の窟(いわや)に篭(こも)った。
 書きに書き、苦節十年。作家はついに人生最高の傑作と思える一作を書き上げた。
 山を降りて作家は叫んだ。
「この傑作を見よ!」
 だが、そこには誰もいなかった。
 すでに数年前に世は滅んでいたのだ。
 
――完――